
トルコにおける賃料額決定訴訟 | 弁護士 オザン・ソイル
家賃額決定訴訟は、トルコ法における訴訟の一種であり、賃借人または賃貸人が現在の家賃額の増額または減額を請求して提起することができます。この訴訟は、当事者が家賃額について合意できない場合に、裁判所を通じて公正かつ現行の家賃額を決定することを目的としています。
本稿では、日本人の依頼人の皆様に向けて、トルコにおける賃料がどのように決定されるか、また賃料決定訴訟の重要なポイントについて説明いたします。
家賃額決定訴訟は以下の場合に提起することができます:
- 更新期間における賃貸借契約書に家賃増額の規定がない場合
- 賃貸借契約が5年を超える期間である場合、または5年後に更新される場合
注意点: 家賃決定訴訟は、住居用および屋根付き作業場の賃貸についてのみ提起できます。この種の訴訟は、田畑、車両、その他の動産には適用されません。
法的根拠
トルコ法において、家賃額決定訴訟は主に6098号トルコ債務法(TCO)第344条および第345条に基づいています。
TCO第344条は、家賃額の決定に関する基本原則を以下のように定めています:
- 更新される賃貸期間に適用される家賃額に関する当事者の合意は、前回の賃貸年度における消費者物価指数(CPI)の12か月平均の変動率を超えない限り有効です。
- 当事者間に合意がない場合、家賃額は裁判官によって決定され、CPI率を超えないものとします。
- 5年を超える賃貸借契約または5年後に更新される賃貸借契約においては、家賃額は裁判官によって公平な方法で決定され、CPI率、賃貸物件の状態、および比較可能な家賃額が考慮されます。
一方、TCO第345条は、家賃額決定訴訟の提起時期および決定の適用期間に関する規定を導入しています。この条項は、訴訟はいつでも提起できるとしていますが、決定がどの日付から適用されるかを決定する規則を含んでいます。
トルコ法における家賃額決定訴訟の提起条件
トルコの法制度において、家賃額決定訴訟を提起するためには、特定の条件が満たされなければなりません。これらの条件は、訴訟の受理可能性および司法手続きの適正な実施にとって非常に重要です。
1 – 有効な賃貸借契約の存在
家賃額決定訴訟を提起するためには、まず当事者間に有効な賃貸借契約が存在しなければなりません:
- 賃貸借契約は書面または口頭で締結することができます。トルコ債務法は賃貸借契約に書面形式を要求していません。
- 契約の有効性は、当事者の相互かつ一致した意思表示に基づくべきです。
注意点: 賃貸借契約の存在を証明する責任は、訴訟を提起する当事者にあります。したがって、特に口頭による賃貸借契約においては、契約の存在と内容を証明する証拠を提示することが重要です。
2 – 法的利益の存在
トルコの法制度において、すべての種類の訴訟と同様に、家賃額決定訴訟においても原告に法的利益が存在しなければなりません。
法的利益は以下の状況において存在すると見なされます:
- 当事者が新しい賃貸期間の家賃額について合意していない場合
- 現在の家賃額が現在の経済状況に合致していない場合
- 賃貸借契約に家賃増額の規定がない場合、または既存の規定の適用が不公平な結果をもたらす場合
破棄院の判決において、「(…)家賃額決定訴訟を提起するためには、原告がこの訴訟を提起する法的利益を有していなければならない。そうでない場合、訴訟は法的利益の欠如により却下されるべきである(…)」と判示され、法的利益の重要性が強調されています。
3 – 5年期間の条件
トルコ債務法第344条第3項は、家賃額決定訴訟の提起に関する重要な時間的条件を導入しています。
5年期間の条件は以下のように適用されます:
- 賃貸借契約が5年を超える期間である場合、または5年後に更新される場合、当事者間に合意があるかどうかにかかわらず、家賃決定訴訟を提起することができます。
- この期間が満了する前は、契約に家賃増額の規定がない場合にのみ、家賃額決定訴訟を提起することができます。
注意点: 5年期間の条件は、賃借人を保護するために導入された規定です。この期間が満了する前は、契約に家賃増額の規定がある場合、家賃決定訴訟を提起することはできず、契約の規定が適用されます。
トルコにおいて、家賃額決定訴訟においては、これら3つの基本条件が共存しなければなりません。これらの条件のいずれかが欠けている場合、訴訟の却下につながる可能性があります。したがって、訴訟を提起する前に、これらの条件の存在を慎重に検討することが重要です。
トルコにおける家賃額決定訴訟の提起
家賃額決定訴訟は、特定の手続き規則に従って提起されなければならない訴訟の一種です。このセクションでは、訴訟の提起に関する側面について説明します。
1 – 管轄裁判所および権限裁判所
トルコの法制度において、家賃額決定訴訟の管轄裁判所および権限裁判所は以下のように決定されます:
- 管轄裁判所: 家賃額決定訴訟は、民事治安裁判所(トルコ語: Sulh Hukuk Mahkemesi)の管轄に属します
- 権限裁判所: 訴訟は、賃貸物件の所在地の裁判所または被告の居住地の裁判所に提起することができます。
注意点: 管轄合意によって異なる裁判所が管轄裁判所として指定されている場合、この裁判所にも訴訟を提起することができます。ただし、賃借人が消費者の地位を有する場合は、消費者に有利な管轄規則が適用されます。
2 – 訴訟提起の期限
トルコ債務法第345条は、家賃額決定訴訟の提起時期に関する重要な規定を導入しています。
訴訟提起の期限に関する基本規則は以下の通りです:
- 家賃額決定訴訟はいつでも提起することができます。
- ただし、新しい賃貸期間から有効となる家賃額については、訴訟は新しい期間の開始の少なくとも30日前に提起されなければなりません。
- 賃貸人がこの30日間の期間内に賃借人に書面による通知を行った場合、次の新しい賃貸期間の終了まで訴訟を提起することができます。
破棄院の判決において、「(…)家賃額決定訴訟において、決定された家賃額が適用される日付は、訴訟が提起された日付および賃貸人が賃借人に通知した時期に依存する(…)」と判示され、訴訟提起の時期の重要性が強調されています。
3 – 訴状の作成
家賃額決定訴訟は、適切に作成された訴状をもって提起されます。
訴状に含まれるべき基本的な要素は以下の通りです:
- 原告および被告の氏名、名称、住所
- 訴訟の対象および請求する家賃額
- 訴訟の対象となる賃貸借契約の日付および内容
- 訴訟の根拠となる事実上および法律上の理由
- 証拠の内容
- 請求の結論
注意点: 訴状に記載される請求家賃額は明確に記載されるべきです。家賃決定訴訟においては訂正および金額の増額が不可能であるため、請求額を慎重に決定することが重要です。
4 – 手数料および費用
トルコにおいて家賃額決定訴訟を提起する際には、特定の手数料および費用を支払う必要があります。
基本的な手数料および費用は以下の通りです:
- 申請手数料
- 比例手数料(請求する家賃額と現在の家賃額の差額に基づいて計算されます)
- 前納手数料
- 郵便費用
- 鑑定人費用(裁判中に鑑定が実施される場合)
注意点: 手数料および費用は、訴訟が提起された日の金額に基づいて計算されます。これらの金額は毎年更新される可能性があるため、訴訟を提起する前に現在の金額を確認することが重要です。
トルコにおける賃料額決定訴訟の司法手続
賃料額決定訴訟における司法手続は、トルコ法制度の一般的な司法原則に従いますが、いくつかの独自の特徴があります。
1 – 証拠の収集
賃料額決定訴訟では、当事者の主張を裏付ける証拠の収集が非常に重要です。
証拠収集過程で考慮される主な要素は以下の通りです:
- 賃貸借契約書及び追加議定書
- 賃料支払い書類
- 賃貸物件の特性及び状態を示す書類
- 比較可能な賃貸借契約書及び金額
- 物件が所在する地域の経済的・社会的特性
注意点: トルコ法では証拠自由の原則が適用されますが、賃料決定訴訟では書面による証拠がより重視されます。特に、比較可能な賃料額を書面で文書化することは、裁判所の判決に影響を与える可能性のある重要な要素です。
2 – 鑑定調査
賃料額決定訴訟では、通常、鑑定調査が義務付けられています。鑑定調査には以下の段階が含まれます:
- 裁判所による鑑定専門家の任命
- 鑑定人による賃貸物件の現地検査
- 比較可能な賃料額の調査及び評価
- 物件の特性及び環境要因の分析
- 詳細な報告書の作成及び裁判所への提出
破棄院の判決において、「(…)賃料額決定訴訟において、鑑定報告書を判決の基礎とするためには、報告書は精査に適し、理由が示され、当事者の主張を満たす性質のものでなければならない(…)」と判示され、鑑定報告書の資質が強調されています。
3 – 比較可能な賃料額の調査
比較可能な賃料額の調査は、賃料額決定訴訟における重要な段階です。この調査は通常、鑑定人によって行われますが、当事者も独自の比較対象を提示することができます。
比較可能な賃料額の調査において考慮される点は以下の通りです:
- 賃貸物件と類似の特性を持つ他の物件の賃料額
- 物件が所在する地域の一般的な賃料水準
- 物件の使用目的(住宅、事業所など)
- 物件の物理的特性及び状態
- 地域の社会経済的構造及び発展水準
注意点: トルコの裁判所は、比較可能な賃料額を決定する際に「旧借主割引」を適用します。この割引は通常10~20%の範囲であり、借主が同じ物件を長期間占有していることによる利点を提供します。
トルコ法における賃料額決定で考慮される要素
賃料額決定訴訟において、裁判所が公正かつ現行の賃料額を決定する際には、様々な要素が考慮されます。これらの要素は、トルコ債務法の関連規定及び確立された破棄院判例に由来します。
1 – 消費者物価指数率
トルコにおける賃料額決定の最も基本的な要素の一つは、消費者物価指数(CPI)率です。
CPI率の賃料額への影響は以下のように現れます:
- 賃貸借契約の最初の5年以内では、賃料増額は前賃貸年度のCPI率を超えることができません。
- 5年後であっても、CPI率は賃料額決定における重要な参照点であり続けます。
注意点: CPI率はトルコ統計局(TUIK)によって毎月発表されます。賃料決定訴訟では、訴訟提起日時点での最新の12ヶ月CPI平均が考慮されます。
2 – 賃貸物件の状態
賃貸物件の物理的及び環境的特性は、賃料額の決定において重要な役割を果たします。
賃貸物件の状態を評価する際には、以下の要素が考慮されます:
- 物件の築年数及び全般的状態
- 使用目的(住宅、事業所など)
- 立地及び環境的特徴
- 実施された改修及び改善
- 物件の規模及び使用可能面積
3 – 衡平の原則
トルコ法制度において、衡平の原則は賃料額の決定において重要な役割を果たします。この原則は、当事者の利益がバランスよく考慮されることを保証します。
衡平の原則を適用する際には、以下の要素が考慮されます:
- 借主の経済状況
- 貸主のニーズ
- 物件の使用期間
- 当事者間の関係の性質
- 市場状況及び経済指標
破棄院の判決において、「(…)賃料額の決定においては、当事者の経済的・社会的状況及び賃貸物件の特性を考慮し、衡平の原則の枠組み内で評価がなされるべきである(…)」と判示され、衡平の原則の重要性が強調されています。
トルコ法における賃料額決定訴訟の裁判所判決及び結果
賃料額決定訴訟の結果として下される裁判所の判決は、当事者間の賃貸借関係に直接影響を与える重要な法的結果をもたらします。本節では、裁判所判決の実施及び結果に焦点を当てます。
1 – 判決の適用時期
トルコ債務法第345条は、賃料決定訴訟の結果として下される判決の適用時期を規定しています。
判決の適用時期に関する基本規則は以下の通りです:
- 訴訟が新しい賃貸期間の開始の少なくとも30日前に提起された場合、判決は新しい賃貸期間の開始時から適用されます。
- 貸主が新期間の30日前に賃料増額がある旨の書面通知を行い、訴訟が新期間の終了までに提起された場合、判決は再び新期間の開始時から適用されます。
- これらの条件が満たされない場合、判決は次の賃貸期間の開始時から適用されます。
注意点: 判決の適用時期は、貸主にとって潜在的な賃料収入損失を防ぐ観点から重要です。したがって、訴訟提起前の期限に注意を払う必要があります。
2 – 遡及適用の問題
トルコ法制度において、賃料決定訴訟判決の遡及適用の問題は議論の余地があります。
遡及適用に関して以下の点が注目されます:
- 一般規則として、賃料決定判決は将来に向けて適用されます。
- しかし、貸主が訴訟提起前に適切な通知を送付した場合、裁判所の判決が通知の日付から適用される可能性があります。
- この問題に関する破棄院の判例は、時間の経過とともに変化する可能性があります。
破棄院の判決において、「(…)賃料決定訴訟において、決定された賃料額の遡及適用は、貸主が適切な通知を送付し、この通知が送達されたことが証明された場合にのみ可能である(…)」と判示され、遡及適用の条件が明示されています。
3 – 決定に対する控訴
当事者は、賃料額決定訴訟の結果として下された決定に対して控訴することができます。
控訴手続きにおいて重要な点は以下の通りです:
- 第一審裁判所の決定に対して控訴することができます。
- 一定の条件の下で、控訴裁判所の決定を破毀院に持ち込むことができます。
- 控訴の審査は破毀院によって行われます。
注意すべき点: トルコでは2016年から三審制が実施されています。したがって、賃料決定訴訟では、まず控訴を申請し、その後、必要な条件が満たされた場合に破毀院に進むことが必要です。
控訴手続きにおいて考慮すべき点は以下の通りです:
- 控訴期間は、決定の通知から2週間です。
- 控訴の理由は、控訴申立書に明確に記載する必要があります。
- 控訴審査は通常書面で行われますが、破毀院は必要と判断した場合に審問を開くことができます。
トルコの法制度において、賃料額決定訴訟の結果として下された決定は、当事者間の賃貸関係に直接影響を与えます。決定の適用時期、遡及適用の問題、および控訴手続きは、これらの訴訟において考慮すべき特に重要な点です。当事者が自らの権利を効果的に行使するためには、決定の結果および法的救済手段について情報を得ることが非常に重要です。
トルコ法における賃料決定訴訟と他の訴訟との関係
賃料額決定訴訟は、トルコの法制度における賃貸関係に関する他の種類の訴訟と密接に関連しています。このセクションでは、賃料決定訴訟と他の訴訟との関連性および相違点を検討します。
1 – 賃料調整訴訟との相違点
賃料額決定訴訟と賃料調整訴訟は類似した目的を果たしますが、法的根拠と適用の面で異なります。
賃料決定訴訟と賃料調整訴訟の主な相違点は以下の通りです:
- 法的根拠: 賃料決定訴訟はトルコ債務法(TCO)第344条および第345条に基づいていますが、賃料調整訴訟はTCO第138条の「履行における過度の困難」の規定に基づいています。
- 適用条件: 賃料決定訴訟には5年間の期間条件または契約に規定がないことが必要ですが、調整訴訟には予見不可能な異常な状況の存在が必要です。
- 結果: 決定訴訟は通常将来に向けて効力を持ちますが、調整訴訟は既存の契約を修正することができます。
- 裁判所の裁量: 調整訴訟では、裁判所の裁量はより広く、CPI(消費者物価指数)の制限を受けません。
注意すべき点: トルコの裁判所は一般的に、経済危機や高インフレなどの状況を賃料調整訴訟の十分な理由とは見なしません。したがって、調整訴訟を提起したい当事者は、真に予見不可能で異常な状況の存在を証明する必要があります。
2 – 立退き訴訟との関係
賃料額決定訴訟は、場合によっては立退き訴訟と密接に関連することがあります。
賃料決定訴訟と立退き訴訟の関係は以下のように現れることがあります:
- 賃料の未払い: 新たに決定された賃料額の支払いを怠ることは、立退きの理由となることがあります。
- 訴訟の併合: 家主は、賃料決定と立退きの両方の請求を同じ訴訟で主張することがあります。
- 賃料増額の拒否: 裁判所によって決定された新しい賃料額を借主が受け入れることを拒否することは、TCO第352条に基づく立退きの理由となることがあります。
破毀院の判決では、「(…)賃料決定訴訟の結果として決定された賃料額を借主が受け入れることを拒否することは、家主に立退き訴訟を提起する権利を与えます。しかし、この権利を行使するためには、新たに決定された賃料額が借主に適切に通知され、借主がこの金額の支払いを拒否しなければなりません(…)」と判示され、賃料決定訴訟と立退き訴訟との関係が強調されています。
立退き訴訟を提起するために考慮すべき点:
- 賃料決定訴訟の結果として決定された新しい賃料額は、借主に書面で通知する必要があります。
- 借主には、新しい賃料額を支払うか物件を明け渡すために1か月の期間を与える必要があります。
- 借主が支払いを拒否するか、この期間内に支払いを行わない場合、立退き訴訟を提起することができます。
結論と評価
トルコの法制度において、賃料額決定訴訟は、借主と家主の間の経済的均衡を維持することを目的とした重要な法的メカニズムです。この種の訴訟は、変化する経済状況に適応し、当事者の利益を公平にバランスさせるように設計されています。
賃料決定訴訟の主な特徴は以下のようにまとめることができます:
- 5年間の期間条件または契約に規定がない場合に提起することができます。
- CPI率、賃貸物件の状態、比較可能な賃料額、および公平の原則などの要素が考慮されます。
- 裁判所の決定は通常将来に向けて効力を持ちます。
- 決定の適用時期は、訴訟提起日または家主による通知の時期に依存します。
トルコでは、特に高インフレの期間中に賃料決定訴訟がさらに重要になります。これらの訴訟は、家主の財産権を保護する一方で、借主が過度の賃料増額から保護されることを確保します。
しかし、賃料決定訴訟の複雑な構造と法的な微妙な点により、このプロセスにおいて専門的な法的支援を求めることが非常に重要です。トルコで賃料決定に関する紛争を経験している場合、またはそのような訴訟に直面している場合は、この分野の専門弁護士からのサポートを求めることをお勧めします。
当法律事務所は、賃貸法の分野で豊富な経験を有しており、賃料決定訴訟においてクライアントに包括的な法的支援を提供しています。この件に関する法的支援が必要な場合は、当事務所をご訪問いただくか、お問い合わせください。